弁護士と良好な関係を築くコツは、「相手に合わせる」ことだと思います。弁護士の個性はさまざまですし、専門分野、仕事のやり方も異なります。例えば、秘書に対して、常に先回りして自発的に仕事を進めてほしいと考える弁護士もいますし、自分と同じペースで仕事をしてほしいと考える人もいます。仕事の合間にちょっとした雑談を好む人もいれば、秘書とは距離感を持って仕事したいという人も。事務所が大きく成長を続けていく中で、弁護士の入所、留学、海外研修、外国人弁護士の受入れなどに絡んで頻繁に異動が発生します。私たち秘書は、長く同じ弁護士につくこともあれば、そういった異動に伴って担当弁護士が変わることもあります。それだけに、秘書には、弁護士が指示したことを迅速かつ正確に行う能力だけでなく、どんなタイプの弁護士とも良い関係を築いていける「柔軟性」が必要だと感じています。
弁護士秘書は、専門的な職種です。肩書きが変わったりすることはないので、昇進のように目に見える形で出世することを求める人には向かないのかもしれませんが、キャリアアップは望めないのかというと、そういうわけではありません。
新人は弁護士秘書として独り立ちすると、弁護士のサポート役として、先輩秘書と同じように責任ある仕事を任されます。日々、正確かつ効率よい仕事を心がけ、自分なりに考えて工夫し、努力を重ねていくと、例え新人であっても、任せてもらえる仕事の範囲が大きくなり、より仕事の幅が広がってきます。それに、私自身がそうなのですが、弁護士からの指示が以前より簡単に済むようになってくると、自分の力量が上がってきていることを感じて、ますます興味深く、自分にできることを追求していきたくなります。
私は昨年、担当の弁護士が変わったため、なじみのない分野の案件の流れや、書類の作成方法などを実地で学ぶ毎日です。9年目にして新しいことに挑戦しています。「弁護士秘書」としての成長に終わりはなく、毎日が新鮮で、奥深く、面白い。ずっと続けていきたい仕事ですね。
弁護士から1の指示を受けたら、責任を持って正確にその1をやり遂げるのが新人。私は中堅になって、自分の仕事はここまでと線は引かずに、その先の2や3までできることはないかを考えて、より自発的に動けるようになりました。文書の修正を頼まれたら、指示された作業だけに留まらず、必ず、契約書、法律意見書、法令で定められた報告書など、その文書の目的に沿った視点で全体に目を通し、書式や文脈までチェックするようにしています。
私よりも先輩のベテラン秘書は、弁護士が今何を必要としているのか、今何をすれば弁護士の仕事がよりスムーズに進むのかが、自然に見えてくると言います。弁護士からの指示を待つのではなく、先回りして自分にできることを考え、自ら働きかけていって弁護士をサポートしているのが、そばで見ているとよくわかります。弁護士の仕事の立て込み具合、案件の進捗状況、クライアントとの関係など、細かな点まで配慮してスケジュールを調整していて、本当にさり気なく弁護士をリードしているんです。だから、弁護士はいつも時間と気持ちに余裕を持って仕事に集中できているようです。そんな相互の信頼関係がクライアントにも自然に伝わるのか、その先輩はクライアントからの信頼も厚く、クライアントと弁護士との間で橋渡し的な役割を果たすこともよくあるんですよ。
ベテラン秘書ともなると、秘書というよりも、むしろ仕事のパートナーに近い存在なのかもしれませんね。私はまだその域に達しているとは思えませんが、そんな気配りが、さり気なくあたり前にできるようになりたいと、日々先輩秘書を目標に頑張っています。
※この記事は2017年3月時点の内容を基にしています。