二度の出産と二度の出向を経て
プロフェッショナル・サポート・ロイヤーに

私は、二度の出産と二度の出向を経て、入所8年目となる2016年から新たな役割で事務所に復帰しました。現在はクライアントと対面する仕事からは離れ、事務所のノウハウ管理やクライアントへの情報発信を担当することを通じて、他の弁護士をサポートする内勤に専念しています。海外の法律事務所では「プロフェッショナル・サポート・ロイヤー」と呼ばれる仕事なのですが、日本にはあまり定着しておらず、AMTでも専業としているのは現在のところ私一人だけです。

私は2009年にAMTへ入所し、4年ほどアソシエイトとしてコーポレート・M&Aの業務分野を中心に働いていたのですが、やがて一人目の子どもを出産しました。育休後、2013年から外資系化学品メーカーへ出向し、約1年の出向を経て2人目を出産。育休明けの2015年から、今度は国内の大手総合商社へ出向しました。二度にわたる出向期間中は、クライアントの目線から案件に携わり、他の法律事務所の弁護士の仕事ぶりに触れるという大変貴重な経験をすることができました。クライアントは弁護士に何を求めているのか、また、法律事務所はそれに応えるためにいかに業務を効率化していくべきなのか。AMTの中で働いている時は見えにくかった新たな視点を得て、欧米のローファームでは一つの業務として確立されている「ナレッジ・マネジメント」という分野に強い興味を持つようになり、この分野であれば出向経験を生かして事務所に貢献できるのではないかと考えるようになったのが、現在のポジションに就いた最大の理由です。

もう一つは、ワークライフバランスの問題。子供が2人とも幼いこともあり、弁護士としてクライアントワークに全力で向きあうことについて正直不安がありました。さらに、留学・海外研修等を通じて大きく成長して事務所復帰してくる同期を横目で見ながら、留学経験もなく二度もブランクを経た私がどうやってキャリアを形成していけるだろうかとの悩みもありました。

でも、プロフェッショナル・サポート・ロイヤーのような所内業務であれば、これまでのキャリアを生かしつつ自分のペースで働けるし、なおかつ事務所やクライアントにも大きく貢献できるはず。そうした思いをあるパートナー弁護士に打ち明けたところ、ゴーサインが出て、今のポジションでAMTに復帰することとなりました。

すべての弁護士のノウハウを一元管理する

AMTのような大手法律事務所には、プロフェッショナル・サポート・ロイヤーの存在は不可欠だと思います。弁護士は現在約400名おり、今後も増える見通しです。これだけ規模が大きくなってくると、弁護士が他のすべての弁護士の業務の詳細を知り、互いに細かいコミュニケーションをとることは現実的でない場合もあり、ノウハウも効率的に共有しづらくなる。しかしその一方で、クライアントからのニーズは年々高まっており、スピーディーに最先端の情報を提供することが求められています。

弁護士の仕事は、自分たちの積み重ねてきた経験やノウハウがベースになりますので、それを整理して管理し、所内で効率よく共有できるようにすることで弁護士が働きやすい環境を整えると同時に、クライアントからの多様なニーズにも迅速に応えていけるよう、さまざまな仕組みを作っていくのが私の仕事です。

具体的に言うと、各弁護士が作ったさまざまな書類を分類しつつ一元的に管理し、所内の弁護士が先例を効率よく引き出せるようにしておきます。また、それをベースに契約書などの雛型を作ったりもします。その他、法令改正などの新着情報を選別しつつ所内に向けて配信したり、クライアントに向けての情報発信の効率化を図るお手伝いをしたり。情報やノウハウに関する“なんでも屋”的存在と言えます。

タイムスケジュールは自分次第

普段は原則として、9時から17時まで事務所にいます。ですが、例えば保育園から「子どもが体調を崩した」などの連絡が来たりすると、昼過ぎに退所して、そのまま家で仕事の続きをすることもあります。昼間に子どもの行事がある場合、午前中は家で働き、午後から事務所に出ることも。私たち弁護士は自営業者なので、柔軟な働き方が可能です。外部からも事務所のサーバーにアクセスできますから、家でも仕事はできるのです。

そうは言っても、電話応対などもありますから、基本的には事務所にいます。ある日のタイムスケジュールを紹介しますと、オフィスに来たら、まず法令改正の最新情報をチェックし、整理。それが済んだら午前中は、契約書雛型の作成に取りかかります。いつもは12時頃から昼食を取りますが、この日は「ランチタイム勉強会」に出席。各分野の弁護士が最近の法改正の動向を共有したり裁判例の紹介をする勉強会なのですが、その分野の最新情報を収集できる貴重な機会なので、私は全分野の勉強会に参加しています。そして、クライアントに共有すべき有用な情報があった場合、「さっそく発信しませんか?」と提案したりもします。午後は、特定の法分野に関するナレッジ・マネジメントの企画を考えてその分野を専門とする弁護士と打合せをしたり、弁護士から収集した先例の仕分けをしたり。そうこうしている間に17時になって、子供のお迎えへ。このような感じで1日が終わります。

これも、女性弁護士の一つのワークスタイル

現在のワークライフバランスは非常に良好です。出産するとインハウス・ロイヤー(組織内・企業内弁護士)を志す女性弁護士も多くいますが、私はフレキシブルな今の勤務形態にとても満足しています。というのも、組織の都合で仕事が発生するわけではなく、自分で仕事を作っていくので、何をどれくらいやるか、いつまでにやるか、などを自分で判断することができるからです。とても自由度が高く、なおかつやりがいもある仕事です。

ナレッジ・マネジメントの分野はやりたいこと・やらなければならないことが山積みで、現在は所内のノウハウを効率的に管理する仕組みを整備することに比重を置いていますが、今後はクライアントへの発信にもっと重点を置きたいと思います。近年は法律事務所間の競争も激しくなっているので、AMT独自の強みを打ち出すべく、より有益な情報を積極的に発信していきたい。海外の法律事務所には、分野ごとにプロフェッショナル・サポート・ロイヤーのチームがあると聞きます。今すぐそこまで整備する必要はないかもしれませんが、いつか一緒に働いてくれる仲間ができたら私としてはうれしい限り。おそらく弁護士志望の女性は今後、ワークライフバランスを考える機会が増えていくと思いますので、「選択肢の一つとして、こういう働き方もある」ということを知ってもらえればと思います。

※この記事は2017年3月時点の内容を基にしています。

門永弁護士の1日の流れ

8:30
通勤中にメールチェック
限られた事務所での執務時間内にドラフティングやリサーチ、打合せ等を行うため、通勤時間にiPhoneでひととおりのメールチェックを行う。
9:00
出勤・最新情報のチェック
法令改正や官公庁の最新情報をチェックして整理、イントラネットに掲載する。
所内向けに週に1回最新情報のメール配信も行うため、その原稿も並行してドラフト。
10:00
契約書雛型の作成
複数の契約先例や参考文献を検討しながら、契約書雛型を作成。
12:00
ランチタイム勉強会に参加
プラクティス・グループ主催の所内勉強会に参加し、特定の法分野の改正に関する最新動向や裁判例等に関して情報収集。
13:00
知財分野の弁護士と打合せ
特定の法分野に関するナレッジ・マネジメントの企画は、その分野を専門とする弁護士と丁寧に摺りあわせを行い具体的なニーズに合う企画の実現を図る。この日は知財分野なので、弁理士の業務への関わり方等についてもヒアリングしながら打合せ。
14:00
先例の整理
収集した契約先例を検討しながら内容を分類して整理する。
16:00
シンガポールオフィスの弁護士との打合せ
海外オフィスの弁護士には、当該国特有の事情にも配慮しつつ東京オフィスと同レベルで業務効率化を図れるよう、細かくニーズを伝えてもらう。
17:00
退所・子供たちのお迎えへ
自宅近くの保育園まで45分ほどかかるため、急いでお迎えへ。
中堅女性

門永 真紀Maki Kadonagaパートナー弁護士

2007年3月
慶應義塾大学法科大学院 (法務博士 (専門職))
2009年1月
当事務所入所

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